大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)4645号 判決
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〔判決理由〕一、原告がつぎの特許発明(本件特許発明)の特許権者であることは当事者間において争いがない。
名称 微粉パルプの層成方法
特許番号 第五八六七七五号
出願日 昭和四一年一〇月六日
出願公告 昭和四五年三月三〇日(昭四五―八七二二)
登録日 昭和四五年一〇月二一日
特許請求の範囲 「空気流にのせて搬送される微粉パルプをサイクロンに送入して空気と分離した微粉パルプをサイクロン底部の下方ほど間隔の狭い一対のネットコンベア間に導き、ネットコンベアを通して排気することにより、両ネットコンベア間に微粉パルプを圧縮状態に保持しつつ下方へ移送し、次に同ネットコンベア対の下端から排出される粉砕パルプを遠心ハンマーを内蔵する円筒状攪拌箱に導入してそのハンマーの高速回転によつて上記の圧縮パルプを解崩し、解崩されたパルプを攪拌箱底のスクリーンを通して下方へ排出し、これをその直下において連続的に送給される薄紙面に落下させると同時に、その薄紙の裏側を排気することによつて、解崩粉砕パルプを薄紙表面に、均一厚さの層状に付着させ、これを圧着ローラにて加圧しつつ繰り出してシートを連続的に生産することを特徴とする微粉パルプの層成方法。」
二、被告が別紙(イ)号図面およびその説明書記載の微粉パルプ層成装置((イ)号装置)を業として製造、販売していることは当事者間において争いがない。
三、そこで、(イ)号装置が本件特許発明の実施のみ使用する物であるかどうかについて検討する。
前記争いのない事実によれば、本件特許請求の範囲には、本件特許発明の第三工程の要旨として「同ネットコンベア対の下端から排出される粉砕パルプを遠心ハンマーを内蔵する円筒状攪拌箱に導入してそのハンマーの高速回転によつて上記の圧縮パルプを解崩し」と記載されているのに対し、(イ)号装置は、フイードロールの直下に近接して設けたガーネットローラの両側をケースで覆い、このガーネットローラにより粉砕パルプを解崩し、同ローラの下方に分散室を設置する構造となつている。
原告は、右第三工程の要部は圧縮パルプ塊を細かく解崩することであり、遠心ハンマーとガーネットローラとはいずれも高速回転によつて圧縮パルプ塊を更に細く解崩するクラッシャーとして全く同じ作用効果を奏するものであるから、前記遠心ハンマーとガーネットローラとの差異は設計上の微差ないし均等の範囲内のものというべきである旨主張する。しかし、本件特許公報(甲第一号証)所掲の発明の詳細な説明中の「以上に詳説したことの発明の方法によれば……粉砕パルプは、攪拌箱内に入つて遠心ハンマー14の回転により個々の短繊維にばらばらと解崩され、……ここに連続して目的のシートが生産されるもので、たとえばガーネットローラによつてパルプを解崩するなどの方法に比較して、粉砕パルプの短繊維への解崩がきわめて効果的に行なわれ、即ち解崩作用が短繊維の個々を切損するような品質の低下なく、完全に行われる上に、層成化の際にその厚さに制限を受けることなしに任意厚さのシートが容易に生産し得られ、殊にガーネットローラによる場合にくらべ、静電気の発生量も少ないので、解崩を阻害(再び塊状にさせない)する虞れもなく、結局均一に分散された解崩パルプの薄紙上分散層が連続して得られる。」なお記載(公報二頁左欄二三行目乃至右欄一四行目)および特許請求の範囲中の「粉砕パルプを遠心ハンマーを内蔵する円筒状攪拌箱に導入してそのハンマーの高速回転によつて上記の圧縮パルプを解崩し」なる記載に照して考えると、本件特許発明は、同じく高速回転によつて粉砕パルプを更に細く解崩する装置であるガーネットローラの使用を斥け、特に遠心ハンマーを選択することによつて前記詳細な説明の如き優れた作用効果を奏する技術を創作した点に、主として、新規性、進歩性があるとして特許されたものと認めざるを得ない。そうだとすれば、本件特許発明において、粉砕パルプ解崩手段としてガーネットローラを用いる技術も遠心ハンマーを用いる技術と均しく特許性ありとして特許せられたものとはとうてい解することができないから、ガーネットローラを遠心ハンマーと均等あるいは両者の差異を設計上の微差であると認めることは本件特許において許されないと解すべきである。したがつて、この点において既に(イ)号装置が本件特許発明の実施にのみ使用するものと認めることはできない。
なお、原告は、前記詳細な説明は、ガーネットローラ、ピンおよびナイフ等の方法による粉砕パルプの解崩が可能であることを当然の前提として、遠心ハンマーを使用する方法が最も好ましい実施形態であることを説明しているに過ぎない旨主張するが、右説明中の「たとえばガーネットローラによつてパルプを解崩するなどの方法に比較して」「殊にガーネットローラによる場合にくらべ」なる文言に照して考えると、遠心ハンマー使用が本件特許発明の最も好ましい実施例としての説明であるとはとうてい解し得ず、発明の詳細な説明中に原告の右主張を根拠づけるに足りる説明は全くない。
また、原告は、本件出願当時、未公告ではあつたが既に①ガーネットローラを備えた粉砕パルプ層成装置の実用新案(出願公告昭四三―二七九二五)、②外周に無数の微細な尖鋭刃を有する解崩ローラを備えた微粉パルプの層成装置の実用新案(出願公告昭四六―六二四五)および③外周の数本ずつのハンマーとナイフとを交互に放射状に取付けたローラを備えたパルプ板などの解崩装置の実用新案(出願公告昭四四―三二三〇)の各登録出願をしており、当時発明ないし考案の対象が先願後願においてどの程度一致すれば新規性を喪失することになるか、また同一人の場合と他人の場合とでその取扱いに差があるかという問題について、法律上は勿論特許庁の審査実務上も明白でなかつたため、本件特許出願に際し右先行考案と別個の装置の使用(方法)を記載することが審査上より安全であると考え、詳細な説明上ことさらに自己の右先願の対象とされた装置を含まないかの如き表現をしたのであるから、右説明の表現をもつて直ちに本件特許発明がガーネットローラ使用の場合を放棄したとか、遠心ハンマー使用の場合に限定して出願したものと解すべきではない旨主張するけれども、特許明細書の記載は表示せられたところに従い客観的に解釈すべく、本件特許請求の範囲に、「……粉砕パルプを遠心ハンマーを内蔵する円筒状攪拌箱に導入してそのハンマーの高速回転によつて……」と明記してあり、その趣旨が本件特許発明においては遠心ハンマーを用いることを示すものであることは既に判示したとおりである。したがつて、たとえ、特許請求の範囲に前記のとおり明記したことが原告主張のような思惑に出たものであるとしても、その主観的意思をもつて前記認定を左右することはできないから、原告の右主張は採用できない。
四 そうすると、本件特許発明の実施にのみ使用するものであるといい得ない(イ)号装置を被告が製造販売する行為はなんら本件特許権を侵害するものではないから、侵害することを前提とする原告の本訴請求は失当として棄却する。
(大江健次郎 楠賢二 庵前重和)